カテゴリ:Summer(夏の便り)( 56 )

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紫陽花はうそつき?
花に見えるのは、じつは萼(がく)。
青い花と蕊(しべ)はこんなに小さい!

The hidrangea is a liar.
What look like flowers are the sepals.
Its blue flowers and stamens are so small!


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ちっちゃな蜂を探してごらん。
ピンクとブルーのひらひらの中じゃなくて、
金平糖みたいな蕊(しべ)の集まったところ。
蜂はちゃぁんと知っている。

Do you find a little bee (in the 2nd fig.)?
Not on the petals but on the star-like stamens.
The bee knows well where the real flowers are.


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「pompadour madame」の画像検索結果

(google search)



華やかなフリルがついているのは、飾り花。貴婦人のドレスのような。
(ポンパドゥール夫人はフランスの紫式部あるいは清少納言?

The decorative sterile florets look like the frills of a dress of
Madame de Pompadour, French Sei Shonagon or Murasaki Shikibu?



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むかし、日本には萼アジサイしかなかった。
万葉集の紫陽花の歌はわずか二首。
紫式部にも清少納言にも顧みられることはなかった。

山にひっそり咲く紫陽花に魅せられたのは
江戸時代に来日した医師にして自然科学者、シーボルトだった。
ある日彼は、装飾花
に覆われた手毬のようなアジサイを見つけた。

彼はその青い手鞠花をヨーロッパへ持ち帰った。

There were only the lacecap hydrangea in Japan.
Both Murasaki Shikibu and Sei Shonagon ignored it.
It was Siebold who admired it for the first time.
He found a Japanese handball-like one covered with
the decorative sterile florets, which he brought to Europe.


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シーボルト(1796-1866)の "Otakusa" (wikipedia)


彼には日本人の妻がいた。楠本滝、お滝さん、オタキサン
紫陽花は海を渡ったが、お滝さんは日本に残された。
お滝さんは娘のイネと小舟から夫の船を見送った。
きっと少しでも長くシーボルトを見ていたかったのだろう。
シーボルトは帰国後、その紫陽花に日本の妻の名前をつけた。
彼の植物誌に記されたOtakusa
オタクサの文字をみるたび
切なくなる。


He had a Japanese wife, KUSUMOTO Taki, O-Taki-san.
He brought back the hydrangea bur left his wife in Japan.
She and Ine, their daughter saw him off from a small boat
because they wanted to see him as long as possible, I think.
After returning, he named the hydrangea "
Otakusa".



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お滝さんに代はりて詠める * in place of O-Taki-san


紫陽花の海の彼方へ消えてゆく優しい嘘つき…青い瞳の


my gentle liar

who is vanishing

in the hydrangea sea

my gentle blue eyes

just like that hydrangea!


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アジサイと稲田 * hydrangea and rice (Ine) field

イネに代はりて詠める *
in place of Ine, Siebold' s daughtrer


海の果てに橘ありや時じくの香の木の実のあらましものを


overseas
is there Chirtus tachibana
a fruit of the longevity?
I wish I could bring it
to my father


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手毬のような「山あじさい」


イネは父と同じ医師となり、木の実ではなく医術で
人々の命を延ばした。

Ine became a doctor like her father and healed the people
not by the fruit but by the medicine.


今日は父の日です Today is Father's Day in Japan.



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18世紀末に中国経由でヨーロッパに伝わっていた紫陽花から、
そしてシーボルトと海を渡った青い手毬のような山紫陽花から、
色とりどりの西洋アジサイが生まれた。
虹の毬のような花々には、雨を知らないものも多いかもしれない。

From the hydrangea that had been transferred to Europe via China,
and Siebold's blue hydrangea, various colours of flowers were born
in Kew Gardens, London.
Some of those colorful flowers might not know the rain.


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Willebeek le Mair*Little Songs of Long Ago(1912)


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ローテンブルク(2004年)


正三角形を二つ組み合わせると、「ダビデの星」(六芒星)(✡)というしるしになる。これはドイツのローテンブルクで見かけた看板。早朝で入れなかったけれど、蝋燭やさんだろうか。ユダヤ教独特のかたちの燭台などを扱うお店だったのかもしれない。

The hexagram(✡)is called the Star pf David. This signboard in Rothenburg might have been a Jewish chandler's(2004).


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「mentholatum vories」の画像検索結果

ウィリアム・ヴォーリズが設計した建築には、「ダビデの星」のモチーフがちりばめられている。大丸心斎橋店エレベーターの時計にも…(現在建替中)。ヴォーリズは博愛と奉仕の精神に貫かれたクリスチャンだった。メンソレータム(pinterest)を日本に普及させたのも彼だった。

William Merrell Vories often used the Star of David in his architectural design. He was a pious Christian and diffused Mentholatum in Japan.


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オオイヌノフグリ*ハナニラ


花韮(ハナニラ)は「ベツレヘムの星」または「ダビデの星」とも呼ばれるとか。たしかに真上から見ると、六芒星()に見える(京都府立植物園、4月撮影)。

The spring starflower is also called the Star of Bethlehem or Star of David.


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 ダビデは旧約聖書や詩編に登場する古代イスラエルの王。曾祖母はルツ、ミレーの「落穂ひろい」のモデルにもなった賢い女性だった。ミケランジェロのダビデ像は、ペリシテの戦士ゴリアトを倒した若き日の勇姿をあらわしている。(図版は末尾) ダビデの奏でる竪琴はイスラエルの先王サウルの心を癒した。
 しかし晩年、老王ダビデは家臣の美しい妻を我が物にするため、その家臣を戦死させてしまった。聖書の登場人物の多くはこうした弱さを秘めている。

David is the second king of Israel in the Hebrew Bible. His great‐grandmother was Ruth. Young David killed the giant Goliath. Many Psalms have been attributed to him because he played the harp very well. But old King David loved the wife of Uriah, Bathsheba and made him die in the battlefield. Not a few characters in Bible have the mortal weakness.


ハープを弾くダビデ少年*David playing the harp (pinterest)
「david harp psalm」の画像検索結果

映画「さよなら子供たち」でボネが弾くシューベルト(2:11~)
♪ Schubert in the film Au revoir les enfants(2:11~)
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「ダビデの星」は大戦中、ナチスによってユダヤ人の目印にされた。ユダヤ人の家の扉には六芒星がペンキで描かれた。映画「さよなら子供たち」では、ユダヤの少年ボネがカトリックの寄宿学校に匿われるが、最後に見つかってしまう。心弱き一人の男の密告のせいだった。

The Star of David was used by the Nazis as the mark of the Jewish people. In this film, a Jewish boy Jean Bonet was sheltered in a Catholic boarding-school but at last found because of the betrayal of a weak man.


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ボネはピアノが上手だった。寄宿学校の音楽教師の前でシューベルトを弾くと、彼女の顔色が変わった(上の写真)。シンプルだが憂いを湛えた旋律を、子供離れした歌ごころで奏でたからだ。ときには友人ジュリアンといっしょにジャズを立ち弾きした。生きていれば、彼はキース・ジャレットのようなピアニストになったかもしれないのに!

Jean played the piano very well. His expressive performance of Moments musicaux D 780 Op.94-2 moved the music teacher. He sometimes enjoyed jazz improvisation with his friend, Jurian. If Jean had survived, he might have become an excellent pianist like Keith Jarrett!


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Marcel Proust nicknamed "Oriental Prince"(photo in 2016)

「anne diary pinterest」の画像検索結果
 (pinterest)

ボネはもう一人のアンネ・フランクだった。アンネも大人になれば、プルースト()のように、独自の視点で物事を鋭く観察する文筆家になったかもしれないのに!
プルーストはユダヤ系の母をもち「東洋の貴公子」とあだ名されたフランス作家。『失われた時を求めて』において、19世紀末から第1次世界大戦頃までのフランス社会を活写し、弱くも複雑な人間の心理を深く掘り下げた。

Jean was an another Anne Frank.
If Anne had become an adult, she might have become a writer with the acute power of observation, just like M. Proust!


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アンネ・フランクの思い出*Souvenir d’ Anne Frank


さまざまな色の花びらは、アンネが秘めていたさまざまな可能性をあらわしている。
Various tints of this rose represent various possibilities of Anne if she had survived
.


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むかしキャンパスでよく見た庭石菖 (賀茂川、2017年)Sisyrinchium rosulatum


フランス語の「さようなら」は「また会おう」…友から聞きし二十歳(はたとせ)のころ

"sayonara" is

"au revoir" in French !
both I and my friend
who taught me that
were around twenty years old

*第2外国語がドイツ語だったsnowdropに、フラ語選択の友達が教えてくれました。
ちなみに、永遠の別れの言葉は「アデュー(adieu)」です。


また会おう子供たち」*Au revoir les enfantsc0345705_15485778.jpg

















「david michelangelo」の画像検索結果「落穂ひろい ミレー」の画像検索結果
ミケランジェロ「ダビデ」ミレー「落穂ひろい」(google search)

おまけ*Bonus

「シャーロット・ランプリング バラ」の画像検索結果「mill and cross film rampling maria pinterest」の画像検索結果

薔薇の名前はシャーロット・ランプリング*映画「ブリューゲルの動く絵」にも出演

Carlotte Rampling and film Mill and Cross(pinterest)


「rose proust pinterest」の画像検索結果「 proust  pinterest」の画像検索結果

マルセル・プルーストの思い出*Souvenir de Marcel Proust(pinterest)


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いまはメンソレータムよりも… 🌹 aujourd'hui, plutôt que Mentholatum…
(google search)
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むかし友達と「薔薇の名前」という映画を観ました。今日は人の名前をもつ薔薇を、snowdropのアルバムから取り出してみましょう。晴れた日の薔薇は須磨離宮公園(2015年)と中之島バラ園(2016年)、雨上がりの薔薇は靭公園(2018年)で撮影しました。

Le Nom de la Rose…snowdrop vit ce film avec des amies il y a trente ans. Aujourd'hui elle choit quelques photos des roses avec le nom de personne.



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ピエール・ドゥ・ロンサール*Pierre de Ronsard


みんなが大好きな薔薇、ピエール・ドゥ・ロンサール。フランスのルネサンス詩人の名前です。「命短し恋せよ乙女」…彼は薔薇の花を見にゆこうと乙女を誘います。

Pierre de Ronsard(1524~1585) est l'un des poètes français les plus importants du XVIème siècle, et son nom est connu par Japonais comme une rose populaire.


(…)あなたの齢(よわい)が
いまを盛りと花咲いている間に
摘めよ 摘めよ あなたの若さを
この花と同じく 老いが
あなたの美しさを色褪せさせるだろうから
(「カサンドルへの頌歌」snowdropによる抄訳)

(…)Tandis que votre âge fleuronne
En sa plus verte nouveauté,
Cueillez, cueillez votre jeunesse :
Comme à cette fleur, la vieillesse
Fera ternir votre beauté. ― Ode à Cassandre, Pierre de Ronsard



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「命短し恋せよ乙女」とうたったのはロンサール(1524~1585)が初めではありません。ロレンツォ・メディチ(1449~1492)がすでに「薔薇を摘め」という詩を作っていました。「一日の花を摘め」という詩句は、古代ローマの詩人ホラティウスにさかのぼります。

Lorenzo de' Medici(1449~1492)avait chanté "Cogli la rosa, o ninfa, or ch'è il bel tempo," et Horatius Flaccus (65 BC~8 BC), ”Carpe diem".



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ミケランジェロ*Michelangelo ♡ Un coeur au coeur de la fleur


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システィーナ礼拝堂(pinterest)


ルネサンスは古代ローマやギリシアへの憧れが花開いた時代。フィレンツェを治めていたロレンツィオ・メディチは、若き日のミケランジェロのパトロンでもありました。ミケランジェロは彫刻家にして画家、建築家、そして詩人でした。

Lorenzo fut un patron de Michelangelo. ”Michel più che mortale Angel divino. Pittor, scultore, architettor, poeta.”


十重二十重(とえはたえ)、花また花で織りつづられた花綵(はなづな)は
またなんと匂い晴れやか、金髪の婦人の髪のその上に、
花一輪また一輪としなだれかしぐ、
花々はあい競い君の額に口づける(…)(― ミケランジェロ、平川祐弘訳)

Quanto si gode, lieta e ben contesta
di fior sopra' crin d' or una, grillanda,
che l' altro inanzi l' uno all' altro manda,
come ch' il primo sia a baciar la testa!(…)(― Michelangelo)


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アンリ・トゥールーズ・ロートレック*Henri de Toulouse-Lautrec

「lautrec poster pinterest」の画像検索結果
(pinterest)

ロートレックは19世紀末フランスで、夜の酒場の絵やポスターを手がけた画家です。下のセピアの写真は、「小さな宝石」と呼ばれていた頃のロートレック。なんてかわいい!

Henri de Toulouse-Lautrec (1864~1901), il était appelé Petit Bijou dans son enfance.

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「Anne frank childhood pinterest」の画像検索結果
(amazon)

最後は「アンネ・フランクの思い出」という名の薔薇。この薔薇は靭公園だけでなく、ボランティアによる花壇にもたくさん咲いていました。

Voici Souvenir d’ Anne Frank… il y avait beaucoup de ces roses non seulement au parc mais aussi aux parterres de volontaire.


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しなやかな少女(をとめ)潜みし窓辺にはましろき頬(ほほ)の雀も来しや

la fenêtre
où cachait
une jeune fille sage
un moineau visitait
à joues blanches ?



日本の雀の頬には●(黒まる;ホクロ)が…
moineau japonais à joues noirs●


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敷島のやまとの雀はほくろ美人 吾(あ)のうなじにもほくろがひとつ

moineau japonais
est la belle
avec deux grains de beauté
il y en a un
sur ma nuque aussi


「つけぼくろ ヨーロッパ」の画像検索結果

おまけ * 首筋のほくろをお洒落黒子(おしゃれぼくろ)といいます。
フランス語でほくろは「美の粒、斑」です。むかしの人はつけ黒子も…
Bonus * des mouches (図版はポーラ文化研究所HPより)


coco*さんの企画に参加させていただいています。



「薔薇の名前」のストーリーはほとんど忘れてしまったけれど、こちらの映画は…

(つづく*To be continued)

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相似形のような欅(けやき)若葉*Zelkova serrata



姉さまの真似つこしてるのやうな葉つぱのあさきくれなゐ

comme une petite sœur
imitant sa grande sœur
un brin de feuilles roses est mignon


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♪ 窓を開ければ…洗濯機へ続くレンガ道


夏日になると、外出がおっくうになります。冬生まれは暑さに弱くて…。
1970年代に父の友人が設計してくれた我が家は、昭和モダンの小さなおうち。
ダイニング(サンルーム)のガラス窓が、Π 字形に並んでいます(写真は 部分)。
今年はたと気づきました。この扉って、フランス窓?!子供のころからの憧れの…
知らなんだ!!

Snowdrop reste chez lui parce qu' il fait trente degrés.
Le dessinateur de sa maison (1970s) est un ami de son père.
Sa famille aime le solarium avec des fenêtres à la française.


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Lettres de la Fenêtre à la française (manga en 1970s)
Toujour Chopin dans ma Poche (1980s) , Barcarolle de Chopin



大事なことはみんな少女漫画から教わりました。音楽、バレエ、美術、歴史、etc.
まあ、秋風先生、菱本秘書とうふふしています♡ 締切りは大丈夫なんですか?
まるでモネの絵のような、大堰川(嵐山)風景…

Ce qui est important, elle l’ a rencontré dans manga!
e.g. la musique. le ballet. l' art, l' hisoire, etc.
Elle trouve dans cette scène de la Oui, Arashiyama,
un portrait d' un dessinateur () et une des toiles de Monet.
https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/cast/akikaze_haori.html

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モネの「舟遊び」をショパンの「舟歌」にのせて… ♪ Barcarolle by Chopin



「tazzio venice piano pinterest」の画像検索結果「半分青い タジオ クロッキー」の画像検索結果「オルフェウスの窓 ユリウス pinterest」の画像検索結果

右は池田理代子『オルフェウスの窓』(google search)
左が元祖タジオ(タッツィオ)(映画「ヴェニスに死す」*トーマス・マン原作)
中は朝ドラ「半分、青い。」より*より正人がタジオっぽい…?

Tazzio is a nickname of the heroine's boy friend the above manga artist gave(




映画「ヴェニスに死す(Der Tod in Venedig)」の秋風羽織(アキカゼハオリ)、いえ、アッシェンバッハです。
音楽はマーラーの「アダージェット」、
若き妻への恋文にして亡き母への手紙ともいえる名曲… 名画の映像とともにどうぞ。お時間が許せば…

Adagietto by G. Mahler is a love letter to his young wife and a letter to his mother in Heaven.


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おまけ*ヴェニス(1999年)*Bonus*Die Freude in Venedig von snowdrop

フランス窓からドイツ作家原作のイタリア映画へ、そしてヴェネツィアへ…脱線してすみません。

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「durer praying hands wiki」の画像検索結果


デューラー「祈る手」*Betende HändePraying HandsAlbrecht Dürer(wikipedia)



 式子も男の手を見つめていた。いつもは己の傷ついた手ばかり見ていたが、その日は時間をかけた見立てだったので、彼の手にも注意を引かれたのだ。

― この人の手はなんと繊細なのであろう。女の命婦でも、もっといかつい手をしている。わたくしのように小さく愛らしい手をした者はいないと命婦は言ってくれるけど…わたくしの右手をとる彼の右手は、まるでわたくしの左手のようだ。わたくしの手よりひと回り大きいだけで、すうっと伸びた指は、わたくしのより長いけれど、同じくらい細い。なんと貴(あて)なる手!医師(くすし)の小刀や書巻しか執ったことのない手。鄙住まいゆえ、浅黒く日に灼けてはいるけれど…

式子の頭にひらめくものがあった。

「そなた、ただの鄙の医師(くすし)ではありませんね」
「いきなり何をおっしゃいます」
「そなたほどの医師なら、御典医はおろか典薬頭にまでも昇りつめうるはず」
「望んだこともありません」
「いつか聞いたことがあります。洛北には野に下った若き元御典医がいて、宋よりの船を通じ密かに医書を取り寄せ、新しい医術で民を癒していると。天平の行基菩薩の生まれ変わりだと人々が崇めていると」
「お人違いにございます」
「では、名を名乗りなさい」
「ご容赦を」
 その刹那、式子の目から珠を連ねたようにはらはらと涙が零れた。
「興奮なさるとお体に障ります。お願いですからお休みになってください」

式子は床に伏しながら、なおも涙を流した。
― 容赦…わたくしにそなたの何を許せというのか。わたくしはそんなに、そなたを困らせてしまったのか ―
しかし皇女は、思いを口に出すことにも、涙をみずからの手で拭うことにも慣れてはいなかった。

男は、水晶の数珠を思わせる皇女の涙から目をそらしながら、眠り薬を取り出し、それを己の指から彼女の指へそっと滑りこませた。


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「眠れる森の美女」* Sleeping Beauty (NHK Educational Television)



She also was observing his hands. While she had always paid attention to her wounded hand only during the brief medical examinations, that night she had enough time to look at his hands.

― How delicate his hands are! Even Myoubu, a court lady, has more rugged hands. She sometimes says that no one has such small and lovely hands like mines… His right hand taking mine looks like my left one. Though a size larger, whose fingers are as thin as mines. What a noble hand! The hand that has taken only a surgical knife, scrolls, and books. Though dark-colored because of the rural sunlight…
 An idea crossed her mind.

“ You are not a mere country doctor.”
“ What are you saying abruptly? ”
“ An excellent doctor like you would have gone to the top such as a court doctor, even the head doctor.”
“ I have never hoped for that.”
“ I have heard there is a young ex-court doctor in the north of the capital who left the government service and has got the medical books through trading ships from Song Dynasty China to heal the people. He is worshipped as the reincarnation of Gyoki (行基) Bosatsu in the Tempyo period.”
“ That’s not me.”
“ Then, tell me your name! ”
“ I’m sorry, I can’t.”
 At the moment, beads-like teardrops fell down her cheeks.
“ You are too excited, please make calm so that your fever does not rise.”

She was still shedding tears in bed.

― I made him say sorry, my questions troubled him…

But the princess was not used to expressing herself and wiping her own tears with her own hands. 
 He turned his eyes away from her crystal-rosary-like tears and handed a sleeping drug from his fingers to hers gently.


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祈ることをいまだ知らざる
さんの手から飛びたつ
の竹とんぼ


(Bamboo-dragonfly-like seeds take the air from fresh maple leaves like palms of the baby who does not know how to pray.)


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「竹虎」の画像検索結果

楓(かえで)の実(2017年5月、三室戸寺)* maple seeds in May, 2017
bamboo dragonfly*Japanese (Chinese) toy(google search)



「ほととぎす」は次回より「ももさへづり*やまと編」へ移り、土曜連載とします。第12回は12月2日()です。http://ramages3.exblog.jp/


(To be continued to next Saturday, at another bloguehttp://ramages3.exblog.jp/


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「eugene onegin liv tyler」の画像検索結果

文(ふみ)を綴る女(エフゲニー・オネーギン*Onegin)(google s.) https://www.youtube.com/watch?v=ekT8QMAUz-I
The women write and write both in the East and the West...

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筆をもつ女(「浮舟冊子」13世紀、大和文華館所蔵)『古今和歌集 梁塵秘抄』朝日新聞社
lady holding a brush(pen) in the Heian period (Ukifune Book, 13c.)


 式子は焦れていた。紙と筆が欲しくてならない。回復し始めてほどなく式子はそれを訴え、きっぱり却下されていた。

「なりませぬ!お身を起こして左手で文字を書けば、お体に障ります。せっかく食い止めている毒が広がったら、どうなさいます。書き物は無理です!」

しかし、こうして緩やかに回復し始めると、目に映るもの耳にするもの、これまでに体験したこと全てがゆかしく、断片的な走り書きだけでもしておきたい。考えあぐねた式子は命婦に頼んだ。医師(くすし)に尋ねるべきことを記しておきたいからと。
 彼女は数葉のみちのく紙の一枚目に体のことを記し、自由な思いつきは二枚目以降に綴った。もとより左手であるから、自らも判読しがたい覚え書きである。それでも式子は、頭のなかに湧き返る想念の出口を得て、ほっと一息ついた。そして、「なりませぬ!」という直截な響きをなつかしみ、早めに筆を置くのであった。

男は枕もとの紙をちらりと見たが、何も言わなかった。この世に、これほど紙と筆に執着する女人がいるとは思ってもみなかった。口数は少ないが、言葉を返すよりも深いところで思慮をめぐらせている。一見なよやかだが芯が強い。しかも、童のようなみずみずしい好奇心に満ちている。男は、だが、自らも好奇心あふれる瞳で治療に当たっていることに気づいていない。(つづく)


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『王朝かな書道史』芸術新聞社 


あてもなく綴りし文を運びかね空啼きわたる山ほととぎす
  snowdrop

(Not knowing where to carry the letter written aimlessly, a lesser cuckoo creaks across the sky.)

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「北斎―富士を超えて」図録*Lesser cuckoo (hototogisu) by Hokusai


Shikishi was irritated. She desperately needed pen and paper. She had already requested them to the man on the first day of her recovery and been rejected.
“No, you cannot. Even if you write with your left hand, it is bad for your body. It is impossible for you to write something now.”
 Now that she has gradually been recovered, everything she was experiencing was so interesting that she wanted to write them down even partially, even in scribbled notes. Being at a loss, she asked Myobu (court lady), on the pretext of noting the questions on her body.
 She got several papers. She wrote the questions on the first sheet, and what she thought on the second and succeeding sheets. They were unreadable memoranda with her left hand. But she felt relieved that she got an outlet for various ideas filling her head. And remembering his straightforward voice, “No, you cannot.”, she laid down her pen as early as possible.
  He glanced at the papers beside her pillow but said nothing. He had never imagined that the woman exists who clings to writing so much. She was a person of few words but of much thoughts in her depth. She looked feeble but was mentally strong. And she was full of curiosity like a child. The man did not know that he himself was full of fresh curiosity.

(To be continued to next Sunday)
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「上村淳之 時鳥」の画像検索結果

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上村松園の孫、淳之による「杜鵑(ホトトギス)」(google search)
Lesser Cuckoo (hototogisu) by UEMURA Atsuhi, Shoen's grandson 
杜鵑草(ホトトギス) * 大徳寺(2016年)* toad lily (hototogisu)


 六日が過ぎ、七日が過ぎ、腕の腫れは肩から肘にかけてゆっくりと引いていった。それでも、杜鵑草(ほととぎす)の花弁の模様めいた痣の塊はまだ腕のそこここに広がっている。いつものように控えめに、風のように速やかに触診する男の手がふと二の腕で止まった。

「くびれが戻ってまいりましたね」 

「……」

 式子は首を傾げた。自分ではよく分からなかったのだ。そもそも、そんなところにくびれがあることすら意識したことが無かった。その日はそれから女官に体を拭いてもらい、翌朝、ふたたび訪れた男に皇女は問うた。

「くびれとは、ここにあるものですか」

衣の上から指し示す白い左手指を見ながら、男は頷いた。


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北斎「杜鵑花 (ホトトギス)・子規 (ホトトギス)」(「北斎―富士を超えて」図録)
ツツジも杜鵑と綴られることがあります。「ホトトギス」の共通点は斑点です。
Azalea (hototogisu) and Lesser cuckoo (hototogisu) by Hokusai, British Museum
These three kinds of hototogisu have the spotted patern in common.

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(5月撮影)


 Six days have passed, seven days have passed, the swelling began to go down slowly. And yet toad-lily-like bruises still covered the whole arm. The man’s palpating hands, which always moved reservedly and swiftly like a wind, have stopped on her upper arm.

“ The curve has come back.”

……?

 She inclined her head. She had never been conscious of the curves on that body region. After his leaving, she made her court lady wipe her body and asked him the next morning.

“ The curve you mentioned yesterday exists here? ”

 Looking at her white finger pointing at the upper arm from on her white robe, he nodded.


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「北斎―富士を超えて」図録*
Lesser cuckoo (hototogisu) by Hokusai


朝昧爽(あさまだき)ほのかに鳴きしほととぎす

けふのひとひの予感のやうに
snowdrop 

À l’ aube un petit coucou chanta vaguement
comme un présage du jour...


「上村淳之 時鳥」の画像検索結果

この連載は日祝日に更新します。前回は3日文化の日)、次回は12日)です。
(To be continued to next Sunday)


「マンレイ ヴァイオリン pinterest」の画像検索結果
Le Violon d'Ingres Man Ray (pinterest)

p.s. Translation service by Excite Blog has finished. I wish my translation (English or French only) helps you enough in my three blogues.

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蜘蛛の巣が描かれた打掛*上村松園「焔」* Flame by UEMURA Shoen (detail) 
今日は文化の日。松園は女性として初めての文化勲章受章者です。
UEMURA Shoen is the first female recipient of the Order of Cultural Merit
(on Culture Day, November 3th, 1948)



 幸いなことに、蜘蛛の毒は右肩で止まり、内腑には到らずに済みそうであった。男は式子にできる限り水を飲ませ、体内の毒を排出させた。女官たちが付きっ切りでその世話に当たった。男は彼女らに命じて尿(ゆまり)を甕に溜め、色と量を毎日測った。その量が多ければ、また、稲穂の金色であれば、最悪の事態は避けられる。尿(ゆまり)は皇女の命の緒であった。
 男は日に二、三度、数分ずつ訪れるだけになった。知らず知らずのうちに式子は、その時間を待っている自分に気づいた。

 わたくしは、物語のなかの女のようだ。男が通ってくるのを待ちわびる女のようだ。わたくしの耳は、沢山の足音の中からあの人の俊敏な足音を聞き分けている。あの人が来たら伝えようと、体の様子を自ら吟味しているのに、いざ来られると、言葉が出て来ない。けれどもあの人は、わたくしの傷口を清め、腕にそっと触れ、顔や体が黄を帯びていないか、むくみがないか確かめるだけで、すべて了解したように去ってゆく…そして、眠くなるような安心感がわたくしを包む。

時に、あの人は好奇心あふれる少年のように目を輝かせる。「ほう、五日目にはこんな色になるのですね、なるほど…」
 わたくしの腕は日を追って、灰青色に、紫に、緑に、黄に色を変えた。表に傷はなくとも、体内に血がにじんでいるのだという。
「大がかりな打ち身とでも思ってください。打ち身じたいは、下々にはよくあることです」

 わたくしは何も心配しない。この人に委ねておけば大丈夫だと感じる。そして、自分の体が彼の役に立っていると思うと、なんだか嬉しい。これまでは、自分に肉体があることさえ意識せずに生きてきたのに。五つの歳から十一年、斎院としてすべてを神に捧げてきたのに。そう、まるで人形(ひとがた)のように…
 わたくしは堕落したのであろうか。堕落だとすれば、しかし、堕落とはなんと優しく、あたたかいものであろう。まるで胸のうちを東風(こち)が吹き抜けてゆくようだ。両手(もろて)でこの世をそっと抱きかかえている心地がする。―


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十二単をまとった雛人形
* Hina doll dressed in Heian robe (2015)



堕つるとは人のこころに帰ること ししむら熱きひとの心に  

snowdrop  ししむら


この連載は日祝日に更新します。次回は11月5日(日)です。


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Fortunately, the spider’s poison stopped at the right shoulder and did not reach the internal organs. The man made the princess drink water as much as she could in order to help eject the poison from the body. The court ladies took care of her excretory needs. The man requested them to collect urine and checked the colour and volume. If the urine was much and gold like the ear of rice, she was safe. The urine was her thread of life.

The man visited her several times a day. Shikishi noticed herself waiting for his visits.

― I am like a heroine in the story where she waits for her lover. My ears identify his footsteps among various ones. Though I always enumerate the symptoms so as to report him, I can speak nothing in front of him. He cleans my wounds, touches my arm, checks whether or not my face and white of my eyes turn yellow, and examines the swelling of every part of my body. And then he nods and leaves me again. After the rendez vous médical, a sense of safety envelops me like a warm hug.

Sometimes his eyes shine like a curious boy’s.

Hmmthe patient’s limb changes colour like this, I see…”

My arm turned blue, purple, green, yellow,etc. as the days go by. According to him, there was no wound except the middle finger’s but the the arm’s vessels are bleeding internally.

The internal breeding itself is common for the people. Yours is a larger scale one.

I worry about nothing. I understand that I only have to entrust myself to him. I am even content that my body is useful for him. I have lived without being conscious of my body. I have devoted myself to deities since I was five years old, for more than ten years, like a Hito-gata (sacrifice doll).   
 Have I become corrupted ? If so, how warm and humane the corruption is ! I feel as if I was hugging the whole world softly and tenderly.


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ひとがた
(城南宮、2016年)* Hito-gata (human shape)



Corrupting is returning to the human heart, to the heart inside my warm flesh.  snowdrop



To be continued to November 5th
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 眠る式子を見守りながら、男は、この神さびた処女(おとめ)の瞳を思い出していた。隈なく澄んだ瞳の内に、あらゆる感情が透けて見えた。初対面にもかかわらず寄せられる全幅の信頼、童のような好奇心。目を円くして蜘蛛の手わざに見入る皇女の姿が胸に浮かんだ。恐れを知らぬお方だ。悪しきもの、穢(けが)れたものを警戒することがない。
 それにしても…男は式子の腕が次第に黒ずんでくるのを見守りながら、ふたたび嘆息した。もしも腫れが腕の血管をこれ以上圧迫するようなら、腕を一文字に切開せねばならぬ。それは皇女に対して許されざる処置であった。御付きの者たちは決して承諾しないであろう。誰よりも彼自身が、それだけは避けたいと感じていた。大きな傷は体力を奪う。化膿すれば回復が遠のく。何より、この薄くすべらかな肌に刃を入れるのは、堪えがたい。

 ホットトギス!明け方、とろとろとまどろみかけていた男は時鳥の声で目覚めた。その甲高い声は、何かの予兆のように響いた。ひょっとすると、吉兆かもしれぬ…式子の寝息がやや軽くなったのを確かめ、ほのぼのと白みゆく東の空をちらりと仰いで、男は独りごちた。目を覚ました女官たちがこちらへ急ぐ気配がした。そのざわめきに、式子がぽっかりと目を開けた。
「僕(やつがれ)はしばし外します。女官たちに汗など拭いてもらい、お休みなさいませ。また後ほど伺います」
 式子は答えなかった。ただじっと男の目を見つめた。彼は一寸眩しそうに目をしばたたくと、女官らに場所を譲った。それでいて、何か後ろ髪引かれるような、まもなく召されようという幼子を残して立ち去るような思いが、しきりにした。

この連載は日祝日に更新します。次回は11月3日(文化の日)です。

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菖蒲の剣  swords of iris (2015年)


 While watching over the sleeping princess, the man was remembering this mystic maiden’s unclouded eyes. The purest reflections revealed all her emotions. The full confidence in this stranger, the child-like curiosity...he could imagine the scene where she was gazing at the spider’s craft without fear. She is too pure to be wary of what is evil or dirty.

 While observing her arm gradually getting dark, he sighed again. If the swelling would press the blood vessels, he had to incise this arm in a straight line. It was an unpardonable treatment to the noble. The servants would never accept that. He himself wanted to avoid such a situation. The long wound deprives the physical strength of the patient. If it will fester, the recovery will be delayed. Above all, it was intolerable for him to cut this smooth and fine skin.

 Hottotogisu! At daybreak, he waked up from the lightest sleep. That bird’s shriek sounded like a kind of omen. It might be a lucky omenhe said to himself, hearing her lighter breathing and catching a glimpse into the lighter sky. The court ladies were entering the room, whose low sounds awakened her.

“I leave the room.They will wipe your body and make you rest. I will come back later.”

 She did not answer. She only contemplated his eyes. He blinked his eyes and gave way to them. He did not know the reason but he felt as if he had left his heart behind, as if he had left a helpless dying child behind…


(To be continued to November 3th, Culture Day)
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能「土蜘蛛」(右は源頼光。なお、鵺(ヌエ)を退治した頼政は頼光の家系)
Noh Spider(NHK Educational Television)



 男は細い竹箸のようなもので式子の指の傷口から蜘蛛の毛を丹念に取り除くと、女官に汲んで来させた奈良の小川の水をざぶざぶとかけた。枕を積み重ねてその上に腕を載せた。ふだんは幾重にも重ねた袖の奥深くに隠れ、人目に触れることのない斎院の腕である。雪のような白さとふくよかさが男の目を射た。しかしそれも束の間、赤い腫れは肘へ、二の腕へ、肩へと昇り、腕全体が丸太のように膨れ上がってゆく。

 男は懐から薬草を取り出し、汁を絞って傷口に塗った。あの赤黒い蜘蛛を見かけて以来、つねに携えていた薬草である。賀茂の里人や童があの蜘蛛に襲われた時は、いつどこにあっても駆けつけ、手当てできるように…御典医や御付きの者たちは男の施術を、ただ口を開けて見守るばかりであった。

「これからお熱が上がりましょう。熱冷ましと痛み止めをさし上げます。万が一、お腕の一部が死ぬると厄介です」

「明日は野宮へ戻られて、賀茂祭を締めくくりあそばすご予定なのだが…」

「なりませぬ!お褥(しとね)より動かすわけには参りません。少なくとも十日はここに留まって頂かねば―。また、人の動く気配がお体に響きます。お人払いを願います」 

 男の気迫に押され、抗弁する者はなかった。


この連載は日祝日に更新します。次回は10月22日です。

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 The man removed the spider’s hairs from her bites with something like bamboo chopsticks and poured the water that a court lady brought from Nara River. He piled several pillows and set her right arm on them. The princess’ arm that should be normally hidden in her robes, whose whiteness flashed before his eyes. But soon a red swelling climbed to her elbow, upper arm, and shoulder to change her right arm into a reddish log.

 He took out some medicinal herbs from his inside pocket and applied the juice to the bites. He had always carried the herbs with him since he had seen that red spider in the forest so that he could heal immediately the villagers or children attacked by the insect. The court doctor and servants were only gazing at his treatments with their mouths open.

“ The fever will heighten. I will give her my painkiller and fever medicine. If her arm should necrose, it would be a matter of life or death.”
“ Tomorrow she is scheduled to go back to Nonomiya and finish the festival
“ Impossible! She MUST rest quietly here at least ten days. May it please your honour, I have to order the room to be cleared so as to avoid even a slight shock to her body. ”
 His spirit made all of them hold their tongues.


(To be continued to next Sunday)
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