
中之島バラ園は春も秋もよく訪れてきたが
夕刻に来るのは初めてであった。
高いビルに囲まれた花園はすでに日が陰り
花々はものうげに微風に揺れている。
秋薔薇には黄昏がよく似合う。
ストリート・ミュージシャンの笛がやんだ時、
「セ、フォー (C'est fort) …」
フランス語の響きが耳に入った。
花陰にいた二人連れはフランス人らしい。
この薔薇は強く香る、と評しているのだ。
彼らはカメラを持たず、ひたすら
薔薇の木から木へ、鼻の高さに開いた一輪を選んで
香りをハンティングしてゆく。
まるでワインのテイスティングだ。
薔薇の花は葡萄酒の杯ふらんすの旅人は狩る花の香りを
des roses
sont verres de vin
un couple
de voyageurs français
chassent arôme des roses
夏の終わりに頂戴した古い書物に載っていた
ジャンヌ・グランジャン(1880-1982)の薔薇の一首が蘇る。
フランス語で綴られた短歌からひろがるのは
ボードレール(1821-1867)らが示した「共感覚」の情景である。
ドビュッシー「音と香りは夕べの大気にめぐりくる」にも通じる。
(2:06~に和の香り)
視覚、聴覚、嗅覚を一度に震わせるフランスの感性が
日本語の短詩型の形をとって差し出される不思議さ!
梅の香の和歌の伝統を持つ やまとごころが震える。

差し出された一首にたいし
翻訳ではなく、二通りの日本語短歌試訳で応えたやまとの歌人がいる。
ゆふかぜに薔薇の木鳴ればよく聞こゆ葉のささやきに混じる花の香
バラの木を夕風つつみ葉の音に薔薇の香りの混じりてゐたり
本多稜
(「旅する短歌―『国際短歌 TANKA INTERNATIONAL』」)

ゆふかぜに薔薇はさざめき葉はうたひ花の香りのうちへ溶け入る
大胆にもsnowdropも試訳してみた(上記の二首は伏せて)。
これは手強い!一通りに翻訳するのがやっとである。
薔薇の鳴る音と葉ずれの音をどう処理するか迷い、
二つが香りの内に溶け合うとも取れるように訳したが
この点は、本多氏の訳文の方が明晰かつ正確である。
余談*2019年にsnowdropが短歌人会に入会した理由の一つが
昨日のいまごろ、この空を仰いでいたのだ。
日中英語俳句を詠んでみたくなった。
ビル街の月半輪の秋なりき
在秋天 超建筑街 下弦月
zài iūtiān chāo jiànzhú jiē xiàxiányuè
it was autumn
when the half moon appeared
beyond building-street
Sweet Moon

君ならで誰にか見せむ薔薇の月
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