
本棚からさらにもう二冊、大小の詩集が現れました。
『時のない公園』(1982年)は水原エリさん17才の秋、
お祖父さまへのレクイエムのように編まれました。
「百合香る里にて―懐かしい祖父へ―」という詩は
いまは亡き肉親への追慕を一つの物語として、
あるいは一枚の絵として差し出して見せます。
その前年に詩人としてデビューしたばかりの少女は
すでに一個の作家でありました。

色とりどりに輝く詩の数々。
一年前の第一歌集よりも憂愁と情熱を深めた言の葉に
松永禎郎の繊細なイラストが通奏低音のように寄り添います。
「エリちゃんは花のようなひとだ
花には眼がないが花にはなんでも見える
風の色さえもわかる」―
やなせたかしが十七才のエリさんに寄せた言葉です。
十七夜(立待月)のエリさんに寄す(日漢タンカ)
墨染の月の光に照らされて君の世界の五彩を夢む
是不是 五彩七彩 你世界 墨是五彩 就像月光
shì bú shì wǔcǎi qīcǎi nǐ shìjiè mò shì wǔcǎi jiù xiàng yuèguāng
snowdrop
十七才の詩集にふたたび登場したハイネの詩集。
「静かにまわるレコード/夢を語るばらの花」
レコード盤の回る昼下がりの趣はCDの登場とともに失われました。
大人になった歌人エリさんは、ハイネをこんな風にふり返ります。
「いと麗しき五月」ハイネの詩と知って振り仮名をふり口ずさみいる
エリ(『スタンダード』)
Im wunderschönen Monat Mai
イム ヴンダーシェーネン モナット マイ
(いと麗しき五月)― バリトンで(雨のような拍手の後に)
『花円舞(ワルツ)』は味戸ケイコの挿絵がパートナー。
早熟な少女が作った幾つものソネットに
立原道造の谺が聴こえるような。
たとえば、「ためらい」。
さらさらと流れていた詩の言葉はいつしか
三十一音の歌の調べに凝縮されるようになりました。
大人になったエリさんの短歌を英訳させて頂きます。
三十余年前の尽きせぬ憧れをしのばせて。
そして、立原道造ゆかりの地で、
二人の歌人として巡りあえた葉月のために。

いつのまに葉月駆けさり逝く夏をトルコ桔梗とゼリー寄せにす
エリ(『スタンダード』)
before I knew it,
August had already run away
I jelly
tulip gentian and
this ending summer
tanka by Eri(Standard), tr. by snowdrop
トルコ桔梗の英名にはチューリップの花が、 🌷
ゼリー寄せには詩人、立原道造が隠れています。
(五月のそよ風をゼリーにして持って来て下さい)
おまけ*Bonus*トルコ風ブルーロンド → ♪ (音符をクリック)

長い手紙のラストは次回、スタンダード・ジャズ・ナンバーの音源つきでお届けします。
(To be continued)(All Rights Reserved)