
『スタンダード』の帯文は藤原龍一郎さんです
前略
あれからいかがお過ごしですか。
葉月の歌会で優しくしてくださって、ありがとうございました。
あの旅では、立原道造設計のヒアシンスハウスを訪ねられた上、
あこがれのエリさんにお会いし、歌集をもとめることが出来ました。
いまは長月下旬、
翻訳の仕事が一区切りついて、ようやく『スタンダード』を開いています。
Im wunderschönen Monat Mai
イム ヴンダーシェーネン モナット マイ
(いと麗しき五月)― テノールで
「いと麗しき五月」ハイネの詩と知って振り仮名をふり口ずさみいる
16のわたし静かに揺さぶったゲーテの薔薇とハイネの菫
早熟な詩人エリさんは、16でこの詩に親しんでいたのですね。
snowdropは18の春に歌曲集「詩人の恋」(シューマン)で知りました。
君しるや美(は)しき五月(さつき)は左右(さう)の手の不協和音もて始まるを
snowdrop
馬見丘陵公園のチューリップ(2018年)
花ひらく瞬間に出会えたならばそれだけでもう報われるもの エリ
エリさんのチューリップの連作から。
花が閉じておじぎをする夕方を待っていたsnowdropとは、
仮におなじ花園にいても、行き違いだったかもしれません。
雑誌「詩とメルヘン」&詩集『風の中のつぶやき』
↑本の帯を外すと、大人のドレスが♪ 立原道造「五月の風をゼリーに(…)」↑
ところが、エリさんとsnowdropは、既にむかし出会っていたのです。
エリさんが16歳で出した詩集を、snowdropも16歳のころ読んでいたのでした。
あの若き詩人水原エリさんが、われらが短歌人会の同人エリさんだったとは!
この歌集がどこか懐かしかったのは、あの詩集に親しんでいたからなのでしょう。
セピア色を帯びた『風の中のつぶやき』の前書
色彩ゆたかな詩は永田萌の装丁と見事なハーモニーを奏でていました。
やなせたかし責任編集の「詩とメルヘン」(上2図のモノクロ頁)では
水原エリさんは投稿者ではなく寄稿者、別格の存在でした。
第一詩集の前書は、やなせさんから未来のエリさんへの手紙さながら。
それにしても
あの頃から数十年後の未来に「詩とメルヘン」の詩人と再会するとは!
SNSのおかげで繋がれた、詩村あかねさん以来です。
手作りのカセット「酒と薔薇の日々」永田萌のイラストラベルで snowdrop
ハイネを愛した少女はジャズを楽しみ、ボサノヴァをかけ、
アンクレットと香水をまとう大人の女性となりました。
少女のエリさんがうたった「すずらんの香水」の初々しさ!
大人のエリさんの短歌に出てくる「鈴蘭」の味わい深さ!
旬の野菜の「山椒」とともにS音の季語として詠む一首には
歌人エリさんならではの奥行きがあります。
「すずらんの香水」(詩集)と鈴蘭・山椒の短歌(歌集)
水原エリさんの「モザイク」という詩には(下)、
とてもかなわない!と文学少女だった頃思いました。
対句や押韻といった定型美と、イメージの豊かさにしびれ、
こんな詩が書けたら、とため息をつきました。
思えばエリさんもsnowdropも、意識の有無にかかわらず、
16の頃から短歌という定型詩を志向していたのかもしれません。
空と花をはりあわせたら風花になります
夜と空想をはりあわせたら夢になります
(…)
つづく(To be continued)
(All Rights Reserved)