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仏文学者ふたり(Proustien et Granvillien)

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Zoom歌会などで、出席者の背景に本棚が映ると、
たとえ背表紙が読みとれなくても、ときめきます。
先日、古書収集でも名高いフランス文学者鹿島茂氏の本棚が
NHKテレビに映りました。
家中の壁が本棚の鹿島氏。部屋ごとにコンセプトが違います。
UN AUTRE MONDEなど、19世紀の希少な挿絵雑誌がずらり!
漫画専用の本棚なら、snowdropだって持っていますけれど…


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不思議の国のアリスを生んだイラスト?♠ Granville inspired L.Carroll?(録画映像)

📚( ← 参考サイト)

鹿島氏の本音の本トークがとにかく面白かったです。
中学時代から5年かけて筑摩書房刊「現代文学大系」(毎月配本)で
世界の文学・日本の文学(徳田秋声も!)を読破したというのですが
その原動力となったのが「征服欲」でした。なるほど、
書棚の端から端まで読まないと気が済まない網羅志向。あるいは、
セクシャリティーが男性寄りの人は征服や競争を好むのかも?!

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神戸のモスクの本棚(2010年代)


『失われた時を求めて』も当然ながら読破しておられます。
snowdropは読み進むのが惜しくて、数年かけて読みました。
参考文献や写真集を副読本としてペースを落とし、
好きな箇所はフランス語で読んで、試訳しました。
冒頭から読み返せば伏線が見つかり、読み終らない嬉しさ!
やがて会社の特許翻訳者の職を離れ、一研究(聴講)生として
仏・伊文科と基督教学科のある大学に通い出したのでした。


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(西洋美術史の恩師は風邪で臥せっている間にRTPを一気読みしたとか)


鹿島氏は「苦行」としての読書という表現をしています。
氏より一才年下の仏文学者、故吉田城教授は
ソルボンヌ留学中、根気を要するプルーストの筆跡解読に打ち込みました。
その心を教え子に問われて、「受苦だよ」と答えたとか。
お二人の読書・研究と「苦」とのつながりが印象的です。
大学に進学したのが学生運動最盛期だったことも関係するでしょうか。


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学窓(2000年代)


古書収集の勝者となるには、長生きするのが大事だと鹿島氏は語ります。
吉田先生は綿密な研究と病気療養とを両立させる人生を駆け抜けました。
フランスでのプルースト学会のさなか透析のためにそっと中座し、
さりげなく戻って議論に加わったり
食事制限があっても厨房に立ち、手製のパテを教え子に振舞ったり…
先生の生き方を研究室や講義室の片隅で垣間見ては圧倒されました。
2005年6月24日、享年54才で誰よりも鮮やかな足跡を残されました。
それでも、もっと長生きして、
更に幅広く深い研究成果を残して下さったらと思わずにいられません。


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失われたココアショップ「AKAI TORI」の閲覧コーナー(2018年)


ところで、鹿島氏は紙の本の時代は終ると言います。
情報を載せた本は電子本に取って代わられ、残るのは
自己表現のための文芸書、それは中世の写本に近いものになるだろうと。
写本!(あるいは装飾経?!)
歌集や句集、詩集などはその典型かもしれません。


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ベリー公のいとも豪華なる時祷書(2月)(TASCHEN)


ここからは、立春のつぶやき*
ようやく本の行間が、テレビに映る人物の人となりが、音楽のなかの沈黙が
感じ取れるようになってきました。
長旅からの帰郷後、二親の介護中や見送りの後、心に隙間のできた時など、
それぞれ一年から数年にわたって
本も読めず、音楽も聴けない状態に陥りました。
テレビで愛らしい動物や美しい植物を眺めても、
所詮は種の保存にゆきつくとしか感じられない味気無さ。
幼少期につながる音楽やドラマも、辛さを呼び覚ましました。
トンネルを抜けて春に到る確かなすべはないものでしょうか。


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(2016年)


マグノリアの燭よ照らせよ昏き谷

chandelles de magnolia,
éclaire la vallée de l'ombre profonde!


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平家納経厳王品 Heike-nokyo (the sutras dedicated by the Taira family)



おお城よ!城といふ名の碩学は読経の声に送られたまふ

ô château!
un professeur qui avait un prénom charmant,
Joh (château)
a été envoyé par
la divine voix de sûtra


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『プルーストの食卓』を図書館で借りて、お茶会を(2000年代)


皐月より睦月が旨きいちごの世けふは立春きさらぎよつか


冬苺のへたにて爪を傷めけり今いちど見む「いちご白書」を


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木下長宏『舌の上のプルースト』のレシピで作った苺菓子(ルーアン、2004年)

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