雨のふる日は謎解きを… 上(Readin' in the rain ♪1)

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わが庭の高砂百合(2015年撮影)*Formosan lily


 夏目漱石の小説『それから』に出てくる白百合の品種は何か?こう問いかけるのは、『漱石の白くない百合』を著した植物学者、塚本裕一氏である。曰く、
 日本の白百合の代表格、山百合には黄色の筋や赤い蕊があり、間近では純白には見えない。漱石の白百合は遠目のイメージ、あるいは西洋の白百合を思わせる。
 西洋の白百合とはマドンナ・リリー(聖母の百合)である。日本では鉄砲百合がこれに近い。

 The white lily in a novel And then by Natsume Soseki, what kind of lily is that ? A botanist, Tsukamoto Hirokazu asks in his book, Soseki's lily that is not white.
 According to him, Japanese represntative white lily, the mountain lily does not look white because of its yellow spots and red stamens. Soseki's white lily might be the mountain lily(golden‐rayed lily)seen from a distance or the Western lily(Madonna lily). The Madonnna lily is similar to the trumpet lily(Easter lily)in Japan.


「それから 映画 藤谷美和子 百合」の画像検索結果

映画「それから」(google search)*これは鉄砲百合?
trumpet lily(?) *  And then (film)


 snowdropは塚本氏の本を閉じた。『それから』を本棚から出してきて、拾い読みしてゆく。主人公代助と、その友人の妻三千代の心が寄り添うとき、そこにはいつも白百合の香りと雨の音がある。

「三千代は何にも答へずに室の中に這入て来た。セルの単衣の下に襦袢を重ねて、手に大きな百合の花を三本許提げてゐた」
「雨は依然として、長く、物に音を立てて降つた。二人は雨の為に、雨の持ち来す音の為に、世間から切り離された。(…)二人は孤立の儘、白百合の香の中に封じ込められた」


(『それから』より。母の持っていた漱石の本はすべて旧仮名遣いです)


Snowdrop changed her books from the botanist's to Soseki's original, And then in her mother's bookshelf. Whenever the hero Daisuke and heroine Michiyo understand the feelings each other, there are the scent of white lilies and sound of rain.

"(…)They were cut from the world by the rain, by the rain-falling sound. (…) They were still alone, closed in the smell of white lilies." (And then * trans. by snowdrop)



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 漱石の百合といえば、『夢十夜』の百合が知られる。黒い瞳の女の墓標から咲いた純白の百合である

「すると石の下から斜(はす)に自分の方へ向いて青い茎が伸びて来た。見る間に長くなつて丁度自分の胸のあたり迄来て留まつた。と思ふと、すらりと揺ぐ茎の頂に、心持首を傾(かたぶ)けてゐた細長い一輪の蕾が、ふつくらと瓣(はなびら)を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹(こた)へる程匂った。そこへ遥の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。(…)」

Soseki's most famous lily appears in Ten Dreaming Nights. It is a white lily opened up from a black-eyed lady's tomb, upward in front of the hero's chest.


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『それから』の三千代と『夢十夜』の女との間には共通点がある。大きな黒い瞳である。

「三千代は美くしい線を綺麗に重ねた鮮かな二重瞼を持ってゐる。眼の恰好は細長い方であるが、瞳を据えて凝(じつ)と物を見るときに、それが何かの具合で大変大きく見える」(『それから』)

「大きな潤(うるほひ)のある眼で、長い睫(まつげ)に包まれた中は、只一面に真黒であつた。」(『夢十夜』)

There is a common element between Michiyo in And then and the lady in Ten Dreaming Nights. ― big, black eyes.


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パレストリーナ(1525-1594)モテトゥス「マリアは天に昇らせたまいぬ」「いばらの中のユリのごとし」
https://www.youtube.com/watch?v=DxezcOzchoI


 漱石には、英国留学中に学んだイギリス文学を翻案した作品もある。アーサー王伝説を題材にした『薤露行(かいろこう)』(1905年)。『夢十夜』(1908年)の3年前に書かれた短編である。

「息絶えて、身の暖かなるうち、右の手にこの文を握らせ給え。(…)隙間なく黒き布しき詰めたる小舟の中にわれを載せ給え。山に野に白き薔薇、白き百合を採り尽くして舟に投げ入れ給え。―船は流し給え」(『薤露行』)

 この少女エレーンのセリフ回しは、『夢十夜』の女のそれとよく似ている。

「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片(かけ)を墓標(はかじるし)に置いて下さい。そうして墓の傍に待っていて下さい。また逢いに来ますから」(『夢十夜』)

Soseki wrote a novella Kairoko(1905) an adaptation of the legend of King Arthur three years before Ten Dreaming Dreams (1908). Lily Maid's words in the former are similar to those of the lady in the latter. "When I die, …"


「film anne of green gables lady of sharotte boat」の画像検索結果

映画「赤毛のアン」*エレーンごっこをするアン
(google search*film*Anne disguising herself as Elaine, Lily Maid)



 漱石の白い百合をめぐって、『それから』から『夢十夜』へ、そして『薤露行』へとさかのぼる白い糸が見えてきた。原点にはアーサー王伝説が…それでは、漱石の白百合は西洋の花なのだろうか?植物学者ではないsnowdropは、美術史家気分で考えてみよう。(つづく)

Snowdrop has found a white thread from And then to Ten Dreaming Nights and Kairoko, whose origin is the Arthurian legend. Then Soseki' s white lily is Western one? Snowdrop will consider that as if she was an art historian, not a botanist.


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(To be continued)

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by snowdrop-momo | 2018-07-01 05:31 | Summer(夏の便り) | Comments(2)
Commented by milletti_naoko at 2018-07-02 17:43
松山のどこかに万葉集に出てくる植物が見られる万葉植物園があって、遠い昔に訪ねたのを、
記事を読みながら、ぼんやりと思い出しました。ある作家の文学作品に出てくる花や植物の
その由来や作品での使用例を追ってみるというのは、とてもおもしろい趣向ですね。
まさに、美しい花や緑、文学作品を愛するsnowdropさんならではの着眼点という気がします。
わたしも、漱石と百合と言うと、真っ先に思い浮かべたのは、夢十夜の第一夜の白百合で、
記事を読みさして、先に第一夜を読み直し、貝の裏に光る月などの描写に、学生の頃は
神秘的で不思議な物語の内容に注意が行っていたけれども、こういう美しい、何か時空を超えた
描写もあったのだと、改めて感じました。『こころ』は授業で何度も教え、
『坊っちゃん』は好きで何度も読んだのですが、『草枕』で脚注の多さにうんざりして読み終えた
あと、『門』や『それから』は読まずじまいだったので、こちらの記事に触発されて、
読んでみたいなと思いました。
そうして、アーサー王伝説からつながるかもしれない白百合で、なんとあの赤毛のアンが
憧れていた花に覆われて眠る乙女が、やはり死の前に共通点のある願いを口にして、
白百合に言及するような文を、漱石が翻案とは言え、つづっていたとは。
白百合の乙女、アンと漱石がそこでつながるとは思いも寄らず、たいへん興味深く拝読しました。
Commented by snowdrop-momo at 2018-07-02 21:08
*naokoさん
丁寧なコメントをありがとうございます。
松山にも万葉植物園があるのですね。
奈良の春日大社のしか行ったことがありません。
各地にあるらしいのですが。

図書館で借りてきた『漱石の白くない百合』、
漱石だけでなく他の作家たちの花々の使用例も追っていて、さすが植物学者の著書でした。
私は漱石一人すら、さほど辿れなくて…

ただ、『草枕』の春の花を追っかけて「花を枕に」という記事をこさえたことはあります。
母の書棚にあったので、昔から親しんでしたのですが
脚注は、ちゃんと読んでいない気がします。
naokoさんはやはり真面目ですね。脱帽です!^^

『赤毛のアン』は翻訳の勉強中に、松本侑子の訳注で
英米文学の影響について教えてもらいました。
映画にもこの場面があって、嬉しかったです。

今むかしの記憶のストックのパッチワークで
アンと漱石がつながりました。
ミレイの描くオフィーリアにも言及したかったのですが…
次回は琳派とつなげてみたいです。