語られぬことば 下(untold words in a novel2)



 シューマン「蝶々」


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 虫たちが目覚める啓蟄(けいちつ)のころ読んだ、もうひとつの「語られぬことば」のものがたり。主人公の一人、拓人は幼稚園児。言葉を身に着けるのが遅くて、人間よりもむしろ小さな生き物たちとよく話せる。


「(また?)チョウチョのこえがきこえた。(…)すう、すう、すう、というすきとおったけはいもした。ちいさいけれどかんぺきにじゅうそくし、あんしんしきったけはいだ。しだいにつよまり、あっとうてきになる(…)どこかちかく、いまにもふれそうなばしょに、すう、すう、すうがいる」
「たくとはただうけとめる。めやみみやはなよりもむしろ、はだのけあなやかみのけをつかって。(…)あつい、とか、たのしい、とか、(…)ねむい、とか、(…)どこかへいくとちゅう、とか、ここにいる、とか、あちこちでなにかがゆれたりおちたりうごいたりせいししたりしていて、たくとにはそのぜんぶがいっぺんにわかるのに、わかるのはあたりまえだから、わかるというかんじがしない。(…)」
― 江國香織『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』



An another book on the words that are not spoken…Takuto is a kindergartener who is slow to learn Japanese and good to communicate with insects and small animals. He perceives with his hairs or pores rather than with five senses the presence of such creatures ― "sou sou", " mou mou", "ni ni" , etc. He understands the feeling of creatures, "hot", "sleepy", "content", " on the way to somewhere", "here I am" , etc.


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 本当のことが言えずに表面をつくろう言葉でやりとりする大人は、言葉以前のことばを忘れてしまった。あるいは、封印してしまった。拓人の両親、奈緒と耕作の言葉は、哀しみを隠すための優しい暗号のよう。
 墓石の向こうへ胸の中で呼びかける霊園の管理人や、かつての恋人と心のなかで対話する老女だけが、拓人のことばの近くにいる。


 「奈緒は料理をすこしずつならべる。グラスに氷を入れ、水と焼酎で満たす。
『お。いいぞ、名画だ。風が描けてる』
 拓人の差しだした”自画像”を手にとって、耕作はほめた。(…)
 ごはん、どこでたべてきたの?
 奈緒は、そう訊くことができない。簡単な言葉なのに、どうしても口からだすことができない。
『自画像なんですって』
 かわりに奈緒はそう言う。
『私も草原かと思ったんだけど』
と、ちょっと笑って。」― 『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』

 
Though adults use Japanese, they rarely express their real intention. They have forgotten or sealed "down" the "archetypal language" (my coinage inspired by Goethe's Urpflanze ) like Takuto's "sou sou". Sometimes they use language like the code to conceal their sadness, jealousy, anger, love, etc. … how gentle their code!

Only a cemetery caretaker who speaks silently to the dead beyond gravestones, an old lady to her ex-lover in the distance, they sense Takuto's communication ablility in untold words.



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三室戸寺(2016年4月)


アリちょうちょトカゲはいつもそばにいた
ツツジの香り ハチの羽音
 


fourmis, papillons, lézards

ils sont toujours près de moi

depuis mon enfance

fragrance des rhododendrons

bourdonnement des abeilles


朝明(あさあけ)のうすくれなゐを待ちかねて ひらきそめたり
あけぼの躑躅


des rhododendrons

nommés l’ aurore

ne pouvaient pas

attendre le corail d’ aurore

et se sont ouvertes aujourd’hui


bébé escargot ! *
かたつむりの赤さん!(今朝)

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 同じ作家に、きれいな本がある。作家の好きな曇りの日、サインをもらいに、大阪まで出かけた。萌黄いろのノースリーブを着た彼女は、銀鼠色のインクでやわらかな文字をしるし、そっと薄紙を挟んでくれた。インクがにじんでしまわないように。
 西暦2000年。あの頃は、旅日記以外の何かを自分が書くなんて、思ってもみなかった。

The same author, EKUNI Kaori had published a beautiful book (below fig.). Ona cloudy day she likes, I went to a bookshop in Osaka to get her signature on my book. She wore a fresh green sleeveless dress. She signed in silver gray ink and inserted a thin paper to prevent an ink splotch. I never imagined I would begin to write something (except travel diary) then, A.D. 2000.


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てふてふの かたちに伏せた 本の背に ひらりとおりた げんげの しおり
sur un livre
retourné en forme de papillon
tombé
un signet d' Astragalus sinicus
à la main



おつき合いくださったあなたに… Bonus(2016)

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お洒落なあなたに… Do you find butterflies in the furi-sode ?

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  右の乙女の振袖に蝶々が… 鏑木清方「嫁ぐ人」(部分)『鏑木清方』朝日新聞社

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by snowdrop-momo | 2018-04-23 18:32 | Spring(春の便り) | Comments(6)
Commented by pikorin77jp at 2018-04-23 19:08
今日のお写真はすべてsnowdrop さんのお写真でしょうか。
特に蝶々のがとっても美しいです。
私も蝶々 狙ったのですが なかなかうまくいきません。綺麗ですね~~!!
Commented by snowdrop-momo at 2018-04-24 07:10
*pikoさん
はい、ぜんぶsnowdropの写真です。^^
この蝶々は一昨年、京都のお寺で花にとまっているのをそぉっと撮りました。
庭の葉っぱに30分以上静止している(眠っている!)蝶々を撮ったこともあります。
スローなsnowdropには蝶々の写真は少なくて…カタツムリなら沢山あるのですが。^^
ps. 青いお着物、蝶々柄のお振り袖ならございます。袖を切って訪問着になさいますか(記事のラストに追加)?


Commented by pikorin77jp at 2018-04-24 19:49
最後の絵も素敵ですね。
蝶々柄 いい色ですね。細雪を思わせる 美しい絵。snowdropさんは こんな素敵な絵をたくさん見ていらっしゃるんですね。また snowdropさんのお写真と一緒に 絵もご紹介くださいね。
Commented by snowdrop-momo at 2018-04-25 18:20
*pikoさん、絵も見てくださってありがとうございます。
こんな青色を、トワイライト・ブルーと呼ぶのでしょうか。
どなたかのブログの宵桜の写真で見ました。
snowdropの心のなかの美術館、これからも折に触れご案内しますね。
Commented by snowmarch321 at 2018-04-27 18:16
こんにちは。

私は最近、江國香織さんのことを思い出して、もしかするとsnowdropさんもやはり江國香織さんがお好きかも知れないと勝手に思っていたのですが、、こちらのブログへきたのは久しぶりで、今日気づきました。
と言っても、私は江國さんのものは実際にはあまり読んだことがないのですが。。。
今度、読んできみたい本が増えて、なかなか実際には読めません。つい他のことをやってしまって。。。

大胆な蝶々の柄のお振袖、本当にお洒落ですね。他の婦人たちのお着物に比べてもとってもモダンに感じます。
snowdropさんの選ばれる日本画の女性たち、とても美しくて素敵です。
本当に教養の深さ、広さに感嘆します。
Commented by snowdrop-momo at 2018-04-27 20:30
*snowmarchさん、こんばんは。
さすがするどいですね~!^^
snowdropの歌や文章には、江國香織や小川洋子など、
好きな作家の表現を本歌にしたフレーズがたくさんあるはずです。
ももさえずり(百の小鳥のさえずり)を真似たがるフクロウ(chouette)ですから!

私も、読みたい本は増えても読む量は減ってしまいました。せっかく読み始めても、
何か思いついてPCを立ち上げてしまったり…あっ、洗濯機が呼んでる!とか。^^

そうですね、蝶々の女性、この絵のなかでは一番若くて、着物も髪型もモダンですね。
この画家さんは東京の人だから、寒色系の粋な着物を描くことが多いんです。
関西なら暖色系でカラフル…(なにわのおばちゃん的?)
なんて、学生時代の先輩の受け売りですけど。^^