天使の贈りもの(フィレンツェのクリスマス)2

Nataleにはこの絵を君に贈るよなんて言ってもいいの雪になるかも

待降節最後の週末がくると、メルカート・ヌオヴォ(新市場)近くの石畳の上に、降誕図がいくつも描かれる。どれもフィレンツェの美術館にある降誕図がモデルだ。原画の写真を脇に置いて、若い画家たちが舗石にチョークを走らせている。彼らはMadonnaro(聖母を描く人)と呼ばれるストリートぺインター。丸一日かけてじっくり仕上げるのだろう。ひげをたくわえたジーパン姿の画家は、ひと息入れて、道行く人と立ち話している。
この美術の都には、いまも画家たちがあふれている。主な観光スポットで、旅人向けの風景画家や肖像画家をよく見かけたものだ。かく言う私も、美術作品を日記帳にスケッチしていて画学生に間違えられ、思いがけない親切を受けたことが再三だった。

日暮れどき、ストロッツィ広場のメリーゴーランドに金色の電飾が灯る。赤やピンクの羽飾りをつけた白い馬に、目を輝かせてまたがる子供たち。黒いマントを着こんだ金髪の少女が目の前を過ぎる。大きなクリスマスツリーも、子供たちと一緒にくるくる回る。

クリスマスの人出を見こんで、共和国広場に風船屋や綿菓子屋が現れる。屋台を照らすランプの支柱に、小さな白い綿菓子がいくつも並んでいる。むかし、夜店で綿菓子を作らせてもらったことがある。友達が作るとふんわり雲のようにふくらむのに、私のはちょうどこんな風に小さくなってしまった。
聖夜まつ花の都に白髪の翁のあきなふ白き綿菓子
(せいや まつ はなの みやこに はくはつの おきなの あきなう しろき わたがし)
(A white-haired old man sells cotton candies in the Advent season, Florence.)

カリマラ通りから少し外れた細い通りに入ると、小さな文房具店があった。半円アーチの入り口に、色さまざまなクリスマスカードが並んでいる。ちょうどいい、親切な宿の人たちにクリスマスカードを贈ろう。レセプションに飾れるような、立体的なのがいい。

買い物を済ませてからも他の品物を眺めていると、ぽんと肩を叩かれた。ふり向くと、店番の少女が、紙製の栞の入った木箱をもって微笑んでいる。あら、栞もすてき。すると少女が口を開いた。
「どれかひとつ、プレゼントするわ。 クリスマスですもの!」
びっくりして店の奥を見ると、オーナーらしき中年夫婦もにっこり頷いている。木箱には、愛らしい少女をかたどった栞、ツリーを描いた栞などがぎっしり並んでいる。

「どれが一番フィレンツェらしいの」
「この花模様の紙がフィレンツェ名産よ」
私は少女が指さす栞を手に取った。黒い革で裏打ちされた紙の栞は、思ったよりしっかりしている。花の模様は街の紋章のアイリスだろうか。どこか唐草文様を思わせる、なつかしい模様だ。 プレゼントを探しに来て、逆にプレゼントを贈られるなんて―。友人と別れ、ひとりで迎えるクリスマス。そのとき、天使がぽんと肩を叩いてくれた。
Buon Natale(ブォン・ナターレ)、素晴らしいクリスマス。
(1999,12,20)


