フィレンツェのトラットリアで
キッチンのないホテルや街角では、皮をむくだけでいい果物、たとえばバナナやオレンジが重宝だ。降りそそぐ陽光に恵まれたイタリアでは、とりわけオレンジがおいしい。イタリア語でアランチャ(arancia)という響きもいい。
オレンジは食用だけでなく、観賞用のもある。たいていの街角にオレンジの木が植えられ、真冬に鮮やかな色の実をつけている。ローマのブティック街、ヴェネト通りのオレンジ並木を見て、パスコリという詩人がレモンの並木を歌っているのを思い出した。

メディチ・リッカルディ宮の中庭
オレンジの国イタリアにはクリスマスツリーは似合わない。雪の積もった樅の木は、むしろ北ヨーロッパにぴったりだ。じっさい、イタリアにおけるツリーの歴史は、西洋ではもっとも浅いらしい。
カトリック総本山のイタリアには、プロテスタント国のドイツで始まったツリーは新参者なのだろう。イタリアで盛んなのはむしろ、プレゼピオと呼ばれる厩の置物だ。ドールハウスのような厩に、聖家族、牛やロバ、羊飼いの人形がにぎやかに並び、天使が飛び交うさまを見ると、ほのぼのした気分になる。

Presepio Casa &Giardino (1999)より
プレゼピオならともかく、青空の下で眺めるツリーはあまりぱっとしない。いっそ樅の木にオレンジでも飾ればいいのに、そう友人と言い合っていたら、フィレンツェでその手の装飾をいくつも目にすることになった。

メディチ・リッカルディ宮の中庭に立っていた、オレンジだけで飾られたツリー。ヴェッキオ橋の土産物屋の庇に架けわたした緑のガーラントにあしらわれた、作りもののオレンジとレモン。ストロッツィ通りの気さくなトラットリアでは、カボチャ、アボガド、果物をカウンターに山積みにしていたが、真ん中にそびえるツリーの飾りがオレンジだった。
Kina Italiaより
キリスト教では、オレンジは純潔と寛容のシンボルだという。メディチ・リッカルディ宮にあるゴッツォーリの「東方三博士の行列」には、オレンジの実る天の園が描かれている。クリスマスをオレンジで飾るのはそんなところにも由来するのかもしれない。ゴッツォーリのオレンジの園では、晴れ着をまとった天使たちが楽しげに空を舞っている。
(1999,12,24)
Sienaのカンポ広場の貝縞に坐り手でむく温州蜜柑
(シエナの かんぽひろばの かいじまに すわり てで むく うんしゅうみかん)
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