ヴェネツィアからパドヴァへ
ヴェネツィアから鈍行列車に乗って、パドヴァまで日帰りの旅に出かけた。すっきりと晴れた朝、窓の外には緑と茶色の畑がどこまでも続き、日陰に白い霜が溶け残っている。一時間ばかりでパドヴァの駅に着いた。さほど大きくない駅舎は若者であふれ、全員が同じ方向へ歩いてゆく。パドヴァ大学の学生だろうと友人が言う。ここはダンテやペトラルカが教鞭をとった「大学者」の街だった。
New Delhi, Kyoto, Padovaの大学の街ふく風や少しく熱き
(ニューデリー キョウト パドヴァの だいがくの まち ふく かぜや すこしく あつき)
木の窓の木の欄干の透かし彫りにからみて光る赤き花むら
(きの まどの きの らんかんの すかしぼりに からみて ひかる あかき はなむら)
大学の街を潤すブレンタ川あすは注ぐやアドリア海へ
(Fiume Brenta streaming in this university town,do you flow into Mar Adriatico tomorrow ? )
街の南のサンタントニオ教会(Sant’ Antonio)は巡礼たちも訪れる大きな聖堂。大聖年を控え修復中だが、天井が高く広々とした堂内は荘厳である。街の中心に向かうと、イタリアで二番目に古い大学、パドヴァ大学に出る。石造りの回廊のそこかしこに、古めかしい浮彫り装飾が散りばめられている。スタンダールが訪れたというカフェ・ペンドロッキは、ヴェネツィアのカフェ・フローリアンとは対照的に見通しがよく、モダンで明るい印象だ。
カフェで昼食後、街の北に位置するスクロヴェーニ礼拝堂に向かった。緑深い公園に入ると、木立の向こうに小さな煉瓦造りの堂宇が見える。高利貸しのスクロヴェーニ一族が免罪のために建てたという礼拝堂は、ひっそり慎ましく佇んでいた。(「天使の羽音」へ続く)
贖罪の祈りの御堂を包みこむ枯葉は金の翼のかたち
(しょくざいの いのりの みどうを つつみこむ かれはは きんの つばさの かたち)
(The autumn leaves surrounding the chapel of penance are in the shape of golden plumes.)