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ガラスのクリスマス1

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クリスマス前の飾り窓


 宿のロビーのヴェネチアンガラスのシャンデリアの下で、友人と合流した翌朝、私たちはムラノ島へ出かけることにした。午前九時、宿の勝手口に横づけにされた貸切の小舟に、五人の泊り客が乗り込んで出発する。舳が青緑の水に白いしぶきを立て、泡のなかからヴィーナスが生まれてきそうな気がする。曲がりくねった細い運河を抜けて、リアルト橋からアドリア海へ。およそ20分の水上ドライブで、島に着いた。



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 まずはガラス工房を見学する。ガラス店の手前にある工房では、炉から赤い火がのぞき、熱気が部屋の隅まで伝わってくる。Gパン姿の男性が右手にハサミを握り、左手に構えた棒の先の赤熱したガラスをのばしてゆくと、みるみる優美な花弁が生まれる。保湿室に入れてもらえず急激に冷えてゆくガラスの花は、数分もすると、パリーンと弾けてしまった。


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 工房を出ると、島を貫く青緑の運河沿いに、赤や橙の小さな家々が並んでいる。白い縁飾りのアーチ窓が、ヴェネツィアより簡素ながらも美しい。13世紀末、この島にヴェネツィア中のガラス工房が集められた。それは東方伝来のガラス技法を秘密にするためとも、溶鉱炉からの出火を恐れたためとも言われている。この街並みも火災にあっては再建されてきたのだろうか。青い川面に色とりどりにゆらめく家々は、さながら儚いガラス細工のよう。日曜の午前、島の教会は待降節のミサの最中だった。
(1999.12.5)


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 ムラノ島を訪ねてから、ヴェネツィアのガラス店で立ち止まることが多くなった。レース細工めいた建築装飾を閉じ込めたような華奢なワイングラス、水面の虹色の影を思わせるミルレフィオーリ(千花文)のペンダント(友人が選んだ)。いつしか私はアドリア海の色を結晶させたような小さな鐘を探していた。
 イタリア語で小さな鐘のことをcampanellaと呼ぶ。カムパネルラ、子供のころ読んだ宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』で、主人公ジョヴァンニといっしょに旅をした友人の名前だ。祭りの夜、カムパネルラは溺れかけた同級生をかばって水死し、銀河の果てへ召されてゆく。ジョヴァンニとカムパネルラ、登場人物の名前がイタリア語なのだから、二人が暮らしていた街もイタリアに似ていたかもしれない。

(「ガラスの天使2」に続く)



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by snowdrop-momo | 2009-12-07 10:29 | Italia(北イタリアの待降節) | Comments(0)