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天翔る者らの来た道(天使と飛天が出会う街2)

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天使と星空

 ネオニアーノ洗礼堂に隣接する博物館の一角に、五-六世紀の小さな礼拝堂がひとつ移築されている。サンタンドレア礼拝堂(Cappella di Sant'Andrea)、うっかりすると見落としかねない、その小さなチャペルで天使たちに会えた。ヴォールト天井から四人の天使がこちらを見下ろしている。四方から両腕をのばし、キリストを表すモノグラム(組み合わせ文字)を捧げ持つ。おそろいの白いチュニカ(長衣)、灰褐色の翼、皮紐のサンダル。飾りけのない装いがりりしい面差しを引き立てる。

 一人一人の顔立ちには個性がある。ほっそりした穏やかな顔、頬の張った意志の強そうな顔、生身の青年僧にも見えてくる。いまにも一人ずつ違った声色でグレゴリオ聖歌でも聴かせてくれそうだ。
 その一方で、大きな瞳、どこか東方的な顔立ちになつかしさを覚える。記憶をたぐり寄せると、シルクロードのミーラン遺跡で出土した飛天の絵がよみがえってきた。くっきりした二重瞼の眼を見開き、天衣の代わりに翼をつけた風変わりな飛天が…


 飛天の起源は紀元二世紀のインドにさかのぼるという。そのころ飛天には、天衣を着けるものと、翼を生やすものとの二通りがあった。有翼の飛天は、ギリシア風の仏像で名高いガンダーラで産声を上げる。これにはギリシア・ローマの有翼の神々(愛の神アモルや勝利の女神ニケなど)の影響があったらしい。東西の文化がとけ合う、ヘレニズムの薫り濃いガンダーラにふさわしい飛天である。

 The features of angels of Cappella di Sant'Andrea (ca. 5-6th century) resemble that in Miran, an oasis city at the south of Taklamakan Desert. Their big eyes, oriental visages…
 The hiten-angel of Miran (ca. 4th century) has double eye lids and wings. At first, in the second century in India, some hiten had wings, some did not. They say the winged deities of Greek-Roman mythology such as Amor and Nike inspired them at Gandhara.


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『ドイツ・トルファン探検隊西域美術展』図録より


 さて、ミーランの飛天は四世紀ごろ描かれたとされる。彫りの深い顔立ちはガンダーラの仏像を思わせるが、前髪だけを剃り残した髪型は、中国の唐子そっくりだ。これはミーランが地理的にガンダーラと中国の中間に位置しているからかもしれない。ルーツのひとつのガンダーラは、はるかギリシア・ローマとつながっている。

 一方、西洋における天使の本格的な登場は、キリスト教が公認された四世紀以降といわれる。ただし、ギリシア・ローマの有翼神と区別するため、翼は五世紀ころまで表されなかったらしい。しかしやがて、この異教の神々の外見をもとに、サンタンドレア礼拝堂の天使のような有翼の天使が描かれるようになる。

 The hiten of Miran is said to have painted around the forth century. While his features resemble those of Buddhist images at Gandhara, his hair style is similar to that of Chinese children's images. Miran is located between Gandhara and China.
 The angel appeared after the forth century when Chiristianity was recognized officially. But the wings were not painted in order to distinguish the angel from the deities of classical mythology until the fifth century.


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Riproduzione Vietata(2枚のうち 部分)


 さらに、ビザンティン美術にはヘレニズム、古代アジア、ササン朝ペルシアの影響が流れこんでいる。サンタンドレア礼拝堂の天使から東方の香りがするのはそのためだろう。そういえば天使たちのあいだに、ペルシアの有翼聖獣(ラマッス)を思わせる有翼の生き物が見える。彼らは四人の福音書記家の象徴として描き継がれてゆくことになる。(そのうちの一人、聖マタイは有翼の人間として描かれるので、天使と区別がつきにくい)
 ミーランの飛天とラヴェンナの天使、時空を隔て天翔ける者たち。彼らはともに、東西の文化が融合するヘレニズムの影響を受け、ギリシア・ローマ神話の神々をもとにして生まれたのだった。

 The angels in Ravenna belong to Byzantine art under the influence of Hellenism, Ancient Asia, and Sassanian Persia. The oriental angels of Cappella di Sant'Andrea are younger brothers of the hiten-angel of Miran.

(1999,11,30)



石粒の天界に骨まで冷やされてBARで啜る熱き牛乳


(いしつぶの てんかいに ほねまで ひやされて バールで すする あつき ぎゅうにゅう)



石造の御堂のベンチのおばさんらヒータよりぬくき声とししむら

             
(せきぞうの みどうの べんちの ドゥエ ドンネ ひーたより ぬくき こえと ししむら)

due donne on a stone bench
in a cold stone chapel
in Ravenna,
whose voice and flesh
were warmer than a heater

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by snowdrop-momo | 2009-11-30 20:50 | Italia(北イタリアの待降節) | Comments(0)