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天使の羽音1

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Cappella degli Scrovegni (by ©LEMs.r.l.以下同)



ジォットとキジルの青のやわらかさ大地の熱の記憶を秘めて


The softness of the azure in paitings of Giotto and Kizil Caves! Is it because the color hides the memory of the ground heat when it used to be lapis lazuli ?




 礼拝堂へ足を踏み入れると、澄みわたった青が頭上いっぱいに広がった。魂が吸われてしまいそうなこの青は初めてではない。西域美術の展覧会でキジル石窟の壁画を見たときも、あたたかみのあるやわらかな青に息をのんだ。石窟の画家もジォットも、ラピスラズリという鉱物を砕いた顔料を使っている。どちらの青も、雲を突き抜けた飛行機の窓からみる空のいろに似ている。


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 ヴォールト天井を仰ぐ目に、青空を急降下する天使が飛び込んできた。彼/彼女は聖母マリアとその両親、ヨアキムとアンナの物語の鍵を握っている。
 ヨアキムとアンナは信心深いのに子供に恵まれない。ヨアキムが荒野で断食をし、アンナが家で悲しみの祈りを捧げていると、天使が現れてこう告げる。「神はあなた方の祈りを聞き届けてくださった、しかも世界中に知られることになる人(マリア)をみごもったのです」(聖母の無原罪のお宿り)
 この絵はヨアキムに現れた天使の方だ。紺碧の風を切る朱鷺いろの翼。矢のような速度に巻き毛が乱れ、腰から下が空に溶けこんでいる。まっすぐにヨアキムを見つめる端正な横顔、しなやかに差し伸べられる右腕。鋭い羽音が耳元に聞こえてきそうだ。


 
 
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 マリアの伝記をたどってゆくと、礼拝堂の内陣に通じる門の上に、天使がたくさん描かれているのが目につく。大天使ガブリエルがマリアに受胎を告知するために、地上へ送り出される場面である。
 おや、中央の天使は背中が丸見えだ。天使の翼を真後ろから見るのは初めてだけれど、こんなにふかふかと頼りなげだなんて。やわらかな羽毛、白いうなじ、裾を少し乱した足どりがなまめかしい。

 この当時、天使は正面から描くのが、ビザンティン以来の伝統になっていた。典型的なのがラヴェンナで見た天使たちである。ところが、ジォットはあえて決まりに従わず、あらゆる角度から天使を描いて見せた。おかげで天使たちはずっと親しみ深く身近な存在になった。
 一方、門の左右に描かれた「受胎告知」は厳粛そのものである。大天使ガブリエルとマリア、背景の白い建築までもが左右対称に描かれている。

 

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 伝記の本筋からはそれるけれど、ジォットの描く羊たちはとても愛らしい。顎を地面につけて眠る羊など、実際に羊に親しんでいないと、見る機会は少ないだろう(だから、ジォットが羊飼いだったという伝説が生まれたのかもしれない)。荒野でまどろむヨアキムに寄り添う羊たちは、主人公と心を分かち合うかのように眠たげだ。
(「天使の羽音2」へ続く)



荒れ野にて眠れる白き羊みつつ角もてあますを黒き羊


(A black sheep do not know what to do with his horns while observing a white sheep slumbering in the wilderness.)















by snowdrop-momo | 2009-12-08 21:47 | Italia(北イタリアの待降節) | Comments(0)